Chaika-II

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 チャイカ(カモメ)という名を戴く BelOMOのハーフカメラ。

 このカメラをパッと見て、とんでもなく素晴らしいカメラである、ことを理解されたあなたは、かなり鋭いと言わざるを得ない。まず上の写真でチャイカ(ЧАЙКА)のロゴを探していただきたい。この中の「Й」という文字にご注目。上の部分のクニュッとした部分が実はカモメのシルエットになっているのである。素晴らしすぎる。このロゴをデザインした人間に私のHPデザインを依頼したいくらいだ。

 ご覧のように外観はシンプルそのもの。もちろんフルマニュアル、ピント目測カメラ。私はBelOMOにこれ以上のものを要求はしたくない。これ以上の機能、例えばレンジファインダーとか、AEとかそういうものをつけると、BelOMOの製品は絶対に故障が増える。とにかくこの会社の製品は工作精度が悪いのだ。

 このカメラはかなり生産台数が多い。何と100万台以上である。しかし、旧ソビエト諸国では流通台数はそんなに多くないようだ。その証拠にロシアルート、ウクライナルートでずっと探してきたが、手に入ったのはやっと一台。これだけ生産台数が多いのなら、絶対に今までにも数台入ってきているはずだ。生産国であるベラルーシに行けば、状況は違っているかも知れない。BelOMO製品には苦い思い出があるんだけれども、どうも無視できない、という複雑な感情を持つ私としては、ベラルーシにもルートを作った方がいいかも知れない。

 BelOMO製品は、私にとって苦い味わいだ。

シルエットエレクトロ:5台入荷のうち、3台に問題があった。

ビリアオート:1台だけだが、何とか動いていた。奇跡的だ。

Agat18K:大ヒットを狙い大量入荷したが、30%以上の製品に問題があり、結果大損した。

ELIKON:壊れていた...

 これが苦い思い出ではないといったら、何と説明したら適切だろう?金輪際 BelOMO製品には手を出さない、と誓いたくもなるが、でもついつい手が出てしまう、変わったカメラを見ると無視できない性格のせいだ。で、結果的に負ける...涙が出てきそうだ。

 100万台の生産台数を誇るチャイカも、私の経験から判断すると、生産台数の50%は最初から不良品。残りの50%のうちその半分は 一ヶ月もせずに壊れた。で、残りの25%のうち半分は 1年のうちに壊れた。そうなると125000台しか残っていない。そのうちのかなりの台数はユーザに飽きられて不燃物ゴミとして捨てられた。言うまでもないが、ロシア人はこういう素敵なカメラを捨てて、事もあろうに日本製の全自動コンパクトカメラを買うのだ。私の感覚からすると、信じられない思考回路を持った連中としか言いようがない。ロシア人からすれば、私のような思考回路の方が信じられないだろうし、実際エレーナは未だに私がこの手のカメラをやたら欲しがるのがどこか理解できない様子である。

 それはよいが、結局このカメラは生産台数の割に、残っている台数はかなり少ないと思われる。

 しかし、完動品で感動しているというのは、ほとんど日本人として感覚がずれているような気がする。日本人の感覚なら、完動品というのは当たり前のことなのだ。私もソビエトカメラを扱って、一番困ったのが不良品の数。途方に暮れたくなるときがあった。最近はロシア側、ウクライナ側に修理工を配置して、事前にチェック・整備を施しているのでよほどの事はなくなり、精神的にも好ましくなったのは有り難いことである。

 ある女性の方から、このカメラの名前が好きだ、という意見を戴いた。確かにチャイカというのはとても響きがよいと思う。そういえば、ソ連製の車にもチャイカというものがあったはずだ。形状はよく覚えていないが、きっと大きくてごつい車だろう。で、きっとちょくちょく不具合があって、オーナーをいらだたせたり、泣かせたりするんだろうな。出勤前にいきなりエンジンの機嫌が悪くなって泣きたくなることはしょっちゅうであることは間違いない。私だったらきっと車のボディを蹴っ飛ばしてしまうだろうが、きっと自分の足よりも遙かに丈夫に違いないから、足をくじいて更に悔しい思いをする、、、まさにソビエトカメラと一緒の結果になるだろう。

 しかし、私はチャイカというと、似たような単語でチャカを想像してしまう。チャカというのは今はどうか知らないが、昔のヤクザ映画などを見ているとヒットマンなんかが懐に忍ばせているいわゆる小銃の呼び名である。ちなみに現在でも私の知り合いで特殊な方はこの名称を使っている。しかし、お巡りさんとか、自衛隊員の方が携行しているピストルのことはチャカとは言わない。日本語の難しいところだ。

 私の場合は、チャカは持っていないから、チャイカを懐に忍ばせることになる。チャカを持っていれば、飲み屋なんかで大乱闘になりそうなときでも、コートの下からちらりと見せて、

「静かにしてねーと、こいつをぶっ放すぞ」

と呟けば、その場は水を打ったように「しーん」として、騒ぎを未然に防ぐ効果が期待できるが(...実話)、

しかしこれがチャイカだと

「静かにしてねーと、チャイカでハーフな写真を撮るぞ」

とドスを利かせて呟いた日には、その場で一気に張りつめた緊張が解けて記念写真撮影会になる可能性がある(...寓話)。

 まぁ、いずれにせよ騒ぎを未然に防ぐというのは良いことだ。チャイカにその能力があるかどうか私にはよくわからないが、いずれにせよBelOMOのカメラはあなたの生活をより楽しくしてくれるものであろう。

 あっ、待てよ、インドでは紅茶のことをチャイと呼ぶそうではないか。ミルクをいっぱい入れたチャイとチャイカの共通点は、...きっと何もないだろうな。

 で、ハーフサイズカメラでいつも書いていることだが、36枚撮りを入れると大変だ。私は自分で書いておきながら、いつも、ふと36枚撮りを入れてしまっている自分に気付く。今回このカメラに36枚撮りを入れたら、巻き戻しが硬く死にそうな思いをした。何でこんなに巻き戻しが硬いのだろう、と不思議に思ったが、BelOMOだからしょうがないな、と納得できるのもこのメーカーの素晴らしいところだ。

 とりあえず24枚撮りフィルムを入れて、48枚適当に撮る。ハーフではこの「適当さ」が肝心だと思う。だから、同じフレーミングで段階露出も切るし、段階ピントもやる。まじめに時間をかけて撮るならブローニー判を一枚一枚丁寧に撮ればよいし、35mmフォーマットカメラに高級フィルムをいれて撮ればよいだろう。私の場合、ハーフなカメラはあくまで

「早撃ちマック養成カメラ」

である。早撃ちというのは、カメラの操作になれていないと出来ない。いうまでもなくスナップショットでは早撃ちが勝負となる。そして、ポートレートなどのじっくり撮る写真でも、余裕を持って挑むことが出来る。こういっては何だが、ポートレートなどを撮るときには、慣れていないと緊張したり、アワ食ったりして、だいたい失敗をやらかす。その失敗の大部分は、段階露出を切ったり、段階ピントをやったりすればすんでしまうことである。こういう下らないことに気を取られずに写真を撮るには、やっぱり普段からカメラの操作、と言うより写真を撮る作業に慣れていた方が有利であることは言うまでもないことだろう。

 まぁ、このへんは色々な考え方があると思うけど、写真雑誌なんかで「プロと一緒にフォトセッション」みたいな企画を読んでいると、参加者が一様に

「プロはとにかく写真を撮るのが早い」

と言っていることである。早撃ちを覚えていて損はないような気がするな。その練習にはやっぱりフィルム代を気にせずに撮れるハーフが一番。

 それでは幸運を祈る。


さて、ここで、チャイカのマクロタイプのレンズがついた珍しい個体の情報をいただきました。情報提供(文章写真ともに)はゾルキ内田さん(h2o@ta2.so-net.ne.jp)です。



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生まれて初めて買ってもらったカメラがオリンパス・ペン…我が国でハーフサイズカメラというと、主にノスタルジックな存在として位置付けられる。しかしながら、我が国を一歩出ると様相は一変する。コンパクトなサイズ、72コマという大量のコマ数、深い被写界深度、これらハーフサイズカメラの仕様は実は諜報活動用カメラに要求される仕様である。実際、東西ドイツが統一された際、旧東ドイツの秘密警察から大量のリコー・オートハーフが発見されたという噂がある。我が国では入門用カメラであっても外国ではまさに「実戦」に投入されていたのである。

さて、チャイカである。オリジナルのチャイカはレンズが固定式の普通のハーフサイズカメラであった。ところが2型になって突然レンズ交換式となる。しかし、これまで肝心の交換レンズが発見されず、「レンズ交換式なのに交換レンズがない不思議なカメラ」という説明がなされていた。

また、実はレンズは「交換式」なのではなく、標準でついてくる28mmレンズを引伸ばし機で併用するために「取り外し式」になのだ、という一見もっともな説明をしている資料もある。しかし、この28mmレンズを実際に引伸ばし機に装着してみたまえ。バックフォーカスの関係で通常の引伸ばし機ではピントを出すことはできないのである。したがって、引伸ばし機併用説は真偽がかなり怪しい。

と、偶然あるモスクワのセラーが私に不思議なチャイカの写真を送ってきた。一見チャイカ2型なのだがレンズがどうも違うようだ。早速この不思議なチャイカを購入することとした。

実物を見ると通常のチャイカ2型とは異なるレンズが装着されている。やった、ついにチャイカの交換レンズを発見したのだ。ただ、レンズの形式名はIndustar-69で通常のレンズと同じである? 何が違うのか?

レンズの奥まった形からマクロレンズのようだなぁと思っていたら、実際その通りであった。レンズヘリコイドに距離表示がなく、ただ、1、2、3という数字が振られていただけなので撮影距離を調べてみると、最短で20cm、最長で40cmほどであった。当然のことながら無限遠の撮影などはできない。

なぜ、ハーフサイズカメラにマクロレンズなのか? その用途を考えてみる。

・KGB、NKVD、空港のイミグレーションなどでの諜報・公安活動用

 ハーフフレームサイズのカメラが諜報活動向きであるということは先述のとおりである。さらにマクロ仕様であれば、どさくさにまぎれて雑踏のなかでターゲットの顔の前にカメラを突き出して撮影するという技も使えるだろう。
 また、旧ソ連はいわゆる旅行の自由などない国であったから、外国人はもちろん、国内の旅行者でも各種の届出が必要であった。さらに旅行中も旅行者に対しては各所で写真による照合が行われていた。旅行者の顔写真はもっとも基本的な公安資料なのである。
 かつてのソ連の空港のイミグレーション(入出国審査)では、木で作られた窓口に旅行者が首を突っ込まなければならなかったという。これは写真を撮るためではなかったか? そこで使われていたカメラがこのマクロチャイカなら全てに説明がついてしまう。ハーフフレームカメラに28mmレンズを使用するとちょうどマクロ・チャイカの撮影距離で人の顔が丸々写る大きさなのである。被写体が定点に来てくれるのだから、窓口とカメラの位置関係は1回調整すれば良く、だからマクロ・チャイカには詳細な距離目盛がないのではないか。もちろん72コマというフレームの多さは大量に人をさばかなければならない空港などでは非常に便利な仕様といえる。

・ソビエト版「ポストライカ」

 ドイツでは電話交換機のカウンターの読み取りのためにファインダーが無い特殊なライカを使っていた。フレームのフォーマットもいわゆるライカ判ではなく特別なものであった。
 マクロ・チャイカはこの目的にも合致する。しかし、共産圏のソ連の電話局が交換機のカウンターをもとに課金を行うということがあったかどうかというと怪しいと言わざるをえない。共産圏では必要なものは(一応)国家から与えらることになっているので「課金」という概念があったかどうか…。

・文献複写用

 Industar-69はディストーションも少なく悪くないレンズである。マクロ・チャイカを複写台に取り付け、文献のコピー(マイクロフィルム化)を行うということはありそうな気がする。
 ただ、1950年代にソビエトで使われていたフィルムに十分な分解能があったかどうかは怪しい。

何にしても、「入出国者他の顔」、「交換機のカウンター」、「文献」などの記録用として用いられたことは間違いないと思われる。まさかチャイカで花のマクロ撮影をする者はいないだろう。

内田理之
h2o@ta2.so-net.ne.jp

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